厚労省 パート 106万円の壁 撤廃へ! 年金制度概要と今後の改正案内容とは?
厚生労働省から年金制度改正法案が国会に提出されました。今回は、現在の年金制度概要を踏まえて、今後どのような改正予定がされていくのかを少し掘り下げて見ていきたいと思います。
1. 年金制度の基本的な仕組み
日本の年金制度は「3階建て」の構造をしており、老後の生活を多角的に支えています。
1階部分:基礎年金
全ての国民が加入する「国民年金」であり、老後生活の基本的な部分を支えます。
現役時代(20歳から原則60歳まで)に保険料を負担し、引退後(65歳から)に年金を受給します。
2階部分:厚生年金(報酬比例年金)
会社員などが加入し、現役時代の報酬に応じて年金額が決まります。
公的年金として、国民の老後生活の基本を支える役割を担っています。
3階部分:企業年金・個人年金
「企業年金」や「個人型年金 (iDeCo)」など、個人の多様なニーズに対応するための私的年金です。
2. 年金制度の財政方式
日本の公的年金制度は「ハイブリッド方式」で運用されています。
賦課方式(現在の主流)
「支える人(働く人)が負担する保険料を、その時代に年金を受け取る人(支えられる人)へ支給する仕組み」です。
主な財源は「保険料収入7割」であり、さらに「国庫負担(税)2割」も加わります。
欧米主要国(アメリカ、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン)の年金制度も賦課方式が主流です。
積立方式(iDeCoなど私的年金)
「掛金を積立てて運用し、将来取り崩しながら受け取る仕組み」です。
日本は過去に「支える人がより多かった時代からの積立金」があるため、賦課方式と積立方式を組み合わせたハイブリッド方式を採用しています。
3. 次期年金制度改正の全体像(案)
次期年金制度改正の基本の考え方は、「働き方や生き方、家族構成の多様化に対応する」ことと、「現在の受給者、将来の受給者の双方にとって、老後の生活の安定、所得保障の機能を強化する」ことが目的とされています。
【主な改正内容と施行時期(案)】
〇社会保険の加入対象の拡大
短時間労働者の加入要件のシンプル化:現在の「勤め先や賃金によって、社会保険に加入するかどうか異なる」複雑な要件を、将来的に「週20時間以上働けば、勤め先にかかわらず社会保険に加入」できるようシンプル化を目指します。
「月額8.8万円以上の要件(賃金要件)を撤廃」します。撤廃時期は最低賃金の引き上げ状況を見極めて判断(法律の公布から3年以内)されます。
「企業規模要件」は10年かけて段階的に縮小・撤廃されます。
・従業員36~50人の企業は2027年10月~
・21~35人の企業は2029年10月~
・11~20人の企業は2032年10月~
・1~10人の企業は2035年10月~
・個人事業所の適用対象の拡大:「常時5人以上の者を使用する個人事業所」において、現行で対象外となっている全業種が2029年10月~加入対象となります。
〇在職老齢年金の見直し
目的は「高齢者の活躍を後押しし、できるだけ労働を抑制しない、ライフスタイル等の多様化の反映、働きたい人がより働きやすい仕組みとする観点」です。
「支給停止の基準額(50万円)の引上げ(50万円⇒ 62万円へ※2024年度の金額)」が2026年4月~予定されています。これにより、年金を受け取りながら働く高齢者が「年金を減額されにくくなり、より多く働けるように」なります。
〇遺族年金の見直し
「遺族厚生年金の男女差を解消」することが主な目的です。これは2028年4月~20年かけて段階的に施行されます。
改正前は30歳未満の夫は受給できなかった遺族厚生年金が、改正後は30歳未満の夫でも5年間有期給付(増額)を受けられるようになります。また、配慮が必要な場合は5年目以降も給付が継続される措置も導入されます。
〇その他の見直し
・子の加算などの見直し(2028年4月~)
・脱退一時金の見直し(公布から4年以内の政令で定める日~)
・iDeCoに加入できる年齢の上限引上げなど私的年金の見直し(公布から3年以内の政令で定める日~)
4. まとめ
日本の年金制度は、国民の老後生活を支える基盤として3階建ての構造を持ち、賦課方式と積立方式を組み合わせたハイブリッド方式で運営されています。今後の改正案は、多様化する働き方やライフスタイルに対応し、高齢者の就労を促進し、遺族に対する保障を強化することで、全ての世代にとって安定した年金制度を構築することを目指しています。特に、社会保険の加入対象拡大、在職老齢年金の見直し、遺族年金における男女差の解消、こどもへの保障強化などが重要な変更点となっています。これは、少子高齢化が加速していく中で、世代間の支え合いという制度の根幹をどうやって持続させていくのか?財源やバランスの問題は引き続き大きな課題となります。年金制度改革は、次世代への影響を含めより長期的な視点でこの仕組みをどう維持して、さらに良くしていくのか?私たち国民一人ひとりが当事者として、関心を持ち続けるテーマとなります。
■参考リンク
厚生労働省 改正事項について解説した補足資料(詳細版)
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